インプレスの「いちばんやさしいWeb3の教本」回収判断について

2022-07-26T10:57:25+0900
Book

インプレスは回収して内容修正するべきと書いた書籍「いちばんやさしいWeb3の教本」ですが、その4日後となる2022年7月25日に出版元であるインプレスより、本書の回収についての発表がありました。

弊社2022年7月20日発行の書籍『いちばんやさしいWeb3の教本 人気講師が教えるNFT、DAO、DeFiが織りなす新世界』の内容に関しまして、SNSを中心に読者の皆様よりさまざまなご意見をいただき、著者ならびに外部有識者、編集部において内容の検証、精査を行ってまいりました(※)が、ご意見いただいた誤りやわかりづらい表現箇所を修正・反映しての本書の販売継続は難しいと判断し、本書の販売を終了させていただくことといたしました。つきましては、本書の回収を実施いたしますとともに、第1章・第2章の無料公開を中止とさせていただきます。改訂版の発売につきましては決定しておりません。

※検証方法について
2022年7月19日より本書のキャンペーンの一環として第1章・第2章の無料公開を行ったところ、それを読んだ方から内容に関するSNSへの投稿が相次いだため、著者に対し、該当箇所の確認を行い、誤記やわかりづらい表現を修正した改訂原稿の作成を依頼しました。同改訂原稿を弊社で確認するとともに、外部有識者の方に内容確認を依頼する方法で検証、精査を進めてまいりました。

今回の事案は、書籍制作時に行う外部有識者によるチェックを怠ったことが大きな要因になったと考えております。

本件を教訓といたしまして、今後は、弊社における内容の検証を徹底するとともに、編集者の知識向上に努めてまいります。

読者の皆様、関係者の皆様、平素より弊社をご愛顧いただいている皆様には多大なるご迷惑とご心配をおかけしましたことを深くお詫び申し上げます。

書籍「いちばんやさしいWeb3の教本 人気講師が教えるNFT、DAO、DeFiが織りなす新世界」の回収について - インプレスブックスより引用

まずは本書を放置せず、会社として行動を取られたことに対して素直に敬意を表します(あとは、著者と担当編集者がSNSで何かしらコメントをしてもらえると完璧だと思います)。

これを踏まえて、個人的な感想を述べておきます。

回収は仕方ないが、できれば改訂版を出版して欲しい #

まず、回収という判断については、現時点では止むをえないと僕も思います。修正範囲が広すぎて、正誤表では間に合わないことは明白でしたので、一旦回収するのは妥当でしょう。

ですが、回収して終わりとするのはとても残念です。できれば、内容を修正した改訂版を出して欲しいと個人的には思っています。

その理由としては、もし著者がプロフィールに書かれてあるとおり、内閣官房の会議に有識者として出席しているような人物なのであれば、間違いを認めた上で、正しい情報を発信する義務があるのではないでしょうか?

もちろん、出版社にも色々と事情があるかと思いますが、出版社としても誤った情報を伝えてしまったと認識しているのであれば、正しい情報を広めることで名誉挽回を成し遂げて欲しいです。

もし、どうしてもインプレスからの再出版が難しいと判断された場合は、原稿は著者が自由に扱っても良いはずですので、他社からの出版、あるいはKDPなどの電子出版プラットフォームを利用して、著者自ら出版を行う道もあるかと思います。

世の中にWeb3の素晴しさを伝えたいという思いがあるのであれば、原稿をこのままお蔵入りにせず、正しい情報として世に出す道を模索して欲しいです。

編集部はいかにして信頼を回復すればよいのか #

個人的に今回の事案についての責任は、ほとんどインプレス編集部にあると考えています。なぜかといえば、最終的にこの内容を世に出して良いと判断したのは編集部だからです。

回収アナウンスの中で、今回の事案は、書籍制作時に行う外部有識者によるチェックを怠ったことが大きな要因になったと考えております。と述べられていますが、これは裏を返すと、編集部の中で誰一人として内容を理解しておらず、正しさの判断ができないものを世に出してしまったということに他なりません。

もちろん、専門分野の内容ですので、著者を上まわる理解を編集部が持っていることはありませんが、それでも、担当編集が校正する中で、これは本当に正しいのか?というひっかかりはあったはずです。そういった疑問点すべてを著者に鋭く確認して、読者に誤解を与えない内容の書籍を作り上げることこそ、編集の使命ではないでしょうか。

チェックを怠ったのが要因だという今回の事案は、技術書として本来もっとも重要である「情報の正しさを確認する」という仕事を忘れ、有名な著者をつかまえてきて、売れる本を書かせることを目的としてしまったことにより、起こるべくして起きてしまった事故のように思えます。

良いコード/悪いコードで学ぶ設計入門」を書かれた@MinoDrivenさんは、上記のように述べていて、これこそが技術書の出版社の仕事だと改めて思いました。

本件を教訓といたしまして、今後は、弊社における内容の検証を徹底するとともに、編集者の知識向上に努めてまいります。と言うのであれば、編集部はSNSなどを通じて、どのような取り組みを行っているかを継続して発信するなどして、信頼回復に努めて欲しいところです。

他のいちばんやさしい教本シリーズについて #

今回、インプレスのいちばんやさしい教本シリーズでこのような事案がおきてしまいましたが、同シリーズでは知り合いの水野さんが「いちばんやさしい新しいサーバーの教本」という本を出版されていたり、「いちばんやさしいGit&GitHubの教本」など評判が高い本が並んでいます。

信頼を失なうのは一瞬と言いますが、せっかくこれらの素晴しい本が積み上げてきた信頼を、たった1冊の本で崩してしまうのは、ほかのシリーズ著者にとっては悲しすぎる事件です。

これまでシリーズを支えてくれた著者のためにも、出版社と編集部は粉骨砕身して信頼を取り戻すよう尽力して欲しいと思います。

まとめ #

今回、「世の中にはもっと酷い本があるのに、これだけを叩くのはおかしい」という反応を目にしました。

まず、「叩く」ということについては、もちろんよろしくないので、僕は記事の内容が人格攻撃や個人攻撃にならないよう細心の注意を払い、あくまで事実に対しての個人的な意見を述べることに注力しました。

日々SNSでの炎上が発生する昨今、数の暴力によって悲劇が生まれていることも事実です。正義という名の暴力をふるうことは許されませんが、だからといって、個人の主張を控えるべきというのも暴論です。おそらく、「叩くこと」と「適切に否定的意見を述べること」の区別がつかないため、批判的な意見を十把一絡に攻撃とみなしてしまっているのだと思いますが、両者は絶対的に異なることを認識しなければなりません。

つぎに、「ほかにもっと酷い本がある」という意見は、「ほかもそうだから、目の前の問題に目をつむれ」ということであり、事なかれ主義の同調圧力以外の何者でもなく、眼前の問題に声を上げない姿勢こそ今回のような事案を生む要因となるでしょう。

かつてのブログのみの時代と比べて、SNSが一般化したことで、適切に批判的な意見を述べる行為が難しくなってきた印象がありますが、行動によって(良い悪いは別にして)何かしらの結果が得られることこそインターネットの良いところだと改めて感じました。

これをきっかけとして、何でもよいのでまた記事を書いていければと思います。