書籍「いちばんやさしいWeb3の教本」は本当に酷い内容だし、Web3界隈の人は一致団結して間違いを指摘して、インプレスは回収して内容修正するべき

2022-07-21T13:14:47+0900
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2022年7月26日追記:インプレスの「いちばんやさしいWeb3の教本」回収判断についてという記事を書きましたので、こちらもあわせてご覧ください。

いちばんやさしいweb3の教本

著者の方には申し訳ないのですが、下記のツイートで存在を知った「いちばんやさしいweb3の教本」という書籍が本当に酷い内容です(内容が気になる人は、2022年7月31日までインプレスのサイトで1、2章が無料公開されていますので、ぜひご覧ください) 。

これが個人ブログやTwitterなどの発言であれば、僕もスルーして終わっていたかと思いますが、書籍でこの内容というのは技術書を書くものとして見過ごすことはできないと感じましたので、この記事を書くことにしました。

まずポジションを明確にしておきますが、僕の考えは次のとおりです。

  • 技術書を書く人を尊敬している
  • Web3には普段触れていないけど、新しい取り組みは応援している
  • 一生懸命書いた本であっても、間違った内容を広めることは許容できない

このようなポジションで、なぜわざわざ自分の意見を表明しておこうかと思ったのかと言えば、現在注目度が高まっているWeb3という分野で、このような技術的に間違った内容を流布されると、それを信じてしまう人が増えてしまう可能性が高く、社会的にも問題があると強く感じたためです。

この書籍のあきらかな間違い #

冒頭の引用ツイートにあるTCP/IP、SMTP、HTTPなどのプロトコルは独占されていません。独占という言葉の意味を使い間違えているとしか思えませんが、もし、独占されているのであれば、誰でもウェブサーバーやメールサーバーを立てることができなくなってしまいます。またこれらのプロトコルの仕様はRFC(インターネットに関するプロトコルの仕様の多くがここで標準化されています)というオープンな場で議論・公開されいます。おそらく著者の方はRFCの存在を認知していないのではないでしょうか。

また、OSの定義もあきらかに間違っています。イーサリアムはOSではありませんし、そもそもブロックチェーンもOSではありません。また、OSにはOSSであるLinuxもありますがこれについてはまったく触れられていません。

これらの間違いは、Web技術者でなくとも、ITパスポートくらいの知識で間違っていると判断できる内容であるため、残念ながら著者は技術を何も理解していないと捉えられても仕方ないですし、この本を読んだ人がイーサリアムはOSとか言ってしまうことを想像すると目も当てられません。

もしかすると、この本で使われている言葉の定義が一般に認知されているものとは異なるという解釈もあるのかもしれませんが、もしそうであるならば、読者に誤解を与えないため、解釈の違いを説明するべきであり、それを怠って解説を行うのは不誠実な行為として受け止められかねません。

本を書く行為とその倫理観 #

本を書くという行為はとてつもない労力を要するにも関わらずリターンが少ないという尊い行為であり、本を書いたという人はすべからく尊敬するべきであり、されるべきだと考えています。

ですが、本を書く人が必ず持っておかなければならない倫理観というものもあるとも考えています。それは、読者に間違った情報を与えてはならないということです。

僕はインプレスのいちばんやさしい教本シリーズは技術書だと思っており、技術書はまず第一に技術の解説に間違いがあってはならないと考えています。ですが、もしかするとこの本の著者と編集者の中でいちばんやさしい教本シリーズはビジネス書であり、技術書ではないのかもしれません。だから、技術的に間違った内容であっても、大事なのは筆者の考えを述べたエッセイ部分であり、それ以外の部分はあまり重要ではないと考えているのかもしれません。

ですが、たとえエッセイであろうとも、技術的内容を含む書籍であるならば、解説する技術に関してはあくまで誤解を与えず正しい内容を伝えるべきです。

出版社と編集者の責任 #

インプレスという出版社から発行されていることから、この書籍は同人本ではなく、ちゃんとした編集者がついて校正が行われた本であるかと思われますが、それにもかかわらず、技術的な内容に多くの間違いがあるものの出版を許容してしまった出版社と編集者の責任は、ある意味で著者よりも重いと言えます。

この本の編集者は、はたして本当に内容を見て校正したのでしょうか?もし、内容を見ればすぐに誤解を与える内容があるとわかるにも関わらず、出版を許可してしまう姿勢ははなはだ疑問でしかありません。

僕も技術書を書くうえで、調査が非常に難しく自信が持てない内容を解説しなければならない機会がいくつもありました。ですが、僕の担当編集者はそういった箇所こそ厳しくチェックしてくれて、読者に誤解を与えない文章表現になるようしんぼう強く校正を行ってくれました。

そのときに担当編集者が言っていたのは、印刷されてしまった書籍は、Webの記事とは異なり気軽に訂正ができません。そのため、内容の誤りはもちろん、誤字脱字も含めて、しっかりと校正段階で直す必要があると教えられ、いまでもその考えを大切にしています。

書籍が世の中に与える影響は、時として著者や出版社の想像を超えて広く伝播する可能性がありますし、読者の今後の人生を左右することも考えられます。

著者には著者の責任がありますが、出版社にも出版社の責任がありますので、このような誤解を広める書籍を放置しないよう責任ある行動を取るべきではないでしょうか。

Web3界隈は率先して内容訂正を促すべき #

現状、日本のWeb3界隈は残念ながらWebエンジニアから愛されいるとは言えず、一定の距離を取られているように見えます。

その理由はこの書籍のように、日本のWeb3界隈にはこれまでの技術や歴史を軽視して、独自の価値観で物事を語ってしまう人が一定数いるからではないでしょうか。

Web3は政府の後押しもあり、将来性はさておき、いま間違いなく注目を集めています。そのタイミングで、このように技術的に間違った内容の流布する書籍を出版して普及させようとすれば、Web3界隈全体のマイナス評価につながり、後の世に悪影響を及ぼす危険性すらあります。

ですからこそ、Web3を成功させたい界隈の人たちこそ、一致団結して率先してこの書籍の間違いを広く伝えるべきではないでしょうか。

まとめ #

今回、いち技術書を書くものとして、子供に見せられないレベルで技術的に間違った内容の書籍は残念ながら放置してはならない、と感じたので、あまりこういったネガティブな記事は書きたくないのですが、記事を書くことにしました。

ここまで書いてみて、もしかすると「いちばんやさしいweb3の教本」はWeb3界におけるソーカル事件を狙ったものなのでは?と思ったりもしましたが、ソーカルのやり方は褒められたものではないですし、もしそうだとしても、技術的に間違った内容を書籍として広めるという行為は、社会に広く悪影響を与えてしまうので、やはり出版社とし適切な対応をとる必要があるのは間違いないかと思います。

著者の方には今回の件にめげず、きちんと勉強して正しい情報を発信できるよう努力してもらいつつ、インプレスについては、編集者、出版社ともに、今回の件を重く受けとめて、同じことが起きないよう出版することの責任を行動として示してもらいたいと思います。

2022年7月26日追記 #

2022年7月25日に出版元であるインプレスより、本書の回収についてのアナウンスが発表されたため、インプレスの「いちばんやさしいWeb3の教本」回収判断についてという記事を書きました。